お世話になっている馴染みの工務店様から依頼を頂いたのは、「大人のカフェスタイルキッチン」。近年どこか雑誌の表紙に必ず入っているようなテーマには、思わず「ベタ」な印象を受けて電話口で笑ってしまった。建築やインテリアの流行は以前に比べ、非極分化されていると個人的に捉えている。10~15年前くらいはやれシンプルモダンだ、やれカントリースタイルだ、…等々時代の流れや文化・ファッションに沿って、割と明確なインテリアスタイルの潮流が見られたものだが、最近は人それぞれが他人に干渉されず、自分の個性を尊重するスタイルが増えている。これはインテリアに限らず、ファッションや生活・文化にも言える。
そのようにこのクライアント夫婦にも「大人のカフェスタイル」というフレーズだけでは到底表現し切れない思いがあったように今は思う。改めてコーディネイターやアドバイザーという立場の人間は、クライアントの夢や思い描く理想の奥底にある部分を、こちらが「言葉」として引き出す重要性を感じた仕事であった。案の定実際にクライアントとの打合せに入ると、ご夫婦の目指すスタイルや使い方に具体的な希望や疑問を聞く事になる。
当初工務店の担当者から聞いていた「大人のカフェスタイル」というのはクライアントの言葉ではなく、あくまでも担当者レベルでざっと希望をまとめた結果、流行りに結び付けた言葉だったようだ。
まずこのご夫婦の口から出た要望は、「カッコ良くして」。これだけ聞くと何と漠然とした要望なのかと思ってしまうところだが、同業の方や販売員の方にはけいけんがお有りかと思うが、少し同じ空間で同じ空気を吸い、雰囲気を見ているだけでも相手の望む物や事柄が伝わってくる感覚がそこにはあった。二つ目に「家に居ながらにしてカフェにいるようなワクワク感があり、人を呼びたくなる大人な空間」。プランを進めて行くために、工務店側で既に間取りやキッチン・家具・薪ストーブ等の配置は決まっており、初めて図面を見た時点ではリノベーションと気付けなかったほど、大規模で洗練された計画だと感じていた。
「大人のカフェスタイル」というテーマだけではやはり軽過ぎたようだ。どのように表現するかは別として、クライアントの要望から理想の空間はハイレベルなものを提案しない訳にはいかなかった。キッチンだけに限らず、工務店側も多く刺激を浴びた事であろう。
このプロジェクトは、築30~40年程の立派な日本家屋をご両親の代から受け継ぎ、外観の一部と内装のほとんどを自分達夫婦と子供達の為にリノベーションするというプロジェクトであった。私が個人的にすごく良いな、と感じたのはご両親が長年住んできた思い入れのあるこの家を、息子夫婦に快く譲り、更に遠慮気味のお嫁さんの好きなスタイルへ改装する事に、非常に協力的な「家族の形」であった。地域的に古くからの風習や常識とされるものが根強く残るのだが、家族相互の理解・信頼関係により実現に至った。
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