以前、アイディアが形になるまでという記事を書かせていただきましたが、今回はその中の「アイディアの整理」について。この時、整理する方法の一つとして試作品作りを挙げましたが、何故、手間をかけてまで試作品を作るのかについて、もう少し掘り下げたいと思います。何かを創り出すクリエイターにとって、試作品作りは本当に大切なんです。
理由1、設計ミスが怖いから
この理由はわかりやすいと思います。発想から設計まで完璧であれば、試作品作りといった手間のかかる工程は省いても良いのですが、そのようなことは稀。最初は思った通りの仕上がりにならなかったり、機能しなかったりするものです。そこから修正を加え、より実現性の高いアイディアに練り上げていく、という流れが王道でしょう。
また、試作品の段階でどうしてもうまく機能しなかったり、コストがかかりすぎてとても発売できないということもあります。そういうモノは、世に送り出さない方が良いということなのでお蔵入りさせるのです。実際、活躍しているクリエイターの方々にとっては、ヒットを生んでいるアイディアよりもお蔵入りさせているアイディアの方が多いのではないでしょうか。
理由2、想定外の発見が得られるから
理由1とは逆に、いざ作ってみると想定外の発見が得られることがあります。これが本当に楽しい。ものづくりの醍醐味の一つです。具体的にはどういうことなのか、私のブランド「尚貴堂」のリヒトというパスケースを例に話したいと思います。
リヒトについての詳細は、前回書いた記事を見ていただけると分かってもらえると思います。
さて、このリヒトは「片手で簡単に開くことができる」「浅いポケットを採用」という2つの特徴を持つパスケースです。今でこそ、この2点を強みにして売り出していますが、実は初めからそうだったわけではありません。結論を言うと「片手で開くことができる」と言う機能は想定していなかったのです。
リヒトを作ろうとしたきっかけは、カードが取り出しにくいパスケースへの苛立ちでした。一般的なパスケースは、ポケットがカード全体を覆うほど深く、とても取り出しにくいものだったためです。そこで、ポケットが浅いパスケースを作ってみようと思い立ちました。
これがその時の試作品。元々は自分用だったので、贅沢にコードバンという革を使って作っています。
この試作品を実際に使ってみて、浅いポケットはカードが取り出しやすく、だからと言ってカードが不意に落ちてしまうこともないと、思った以上に使いやすいものでした。ここまでは思惑通り。しかし、いざ使ってみると片手でパカパカ開くことができるではありませんか。まったくの想定外です。
片手でパカパカ開く機能の秘密は、素材の固さと画像で記した部分の構造にあります。この構造、元々はペンホルダーにもなるようにと採用したものでした。
昔、ジョッターと呼ばれるメモ機能を備えたパスケースを作ったことがありました。電車通学していた当時、パスケースもメモ帳も両方とも常に持ち歩きたいと思い、一つにまとめてしまったものです。
このパスケースにはペンを挿せる部分を取り付けていたので、リヒトにも取り付けてみようかなと思って採用したのですが、この部分がそのまま片手でパカパカ開く構造に…
素材については、たまたまコードバンという比較的パリッとした質感の固い皮を使っていたために条件に合致。ふにゃふにゃと柔らかい素材では、このパカパカ具合は生まれなかったのです。偶然と偶然が重なり、一つの強みとして売りにできる機能になってくれました。
以上、ノートの上でスケッチしているだけでは辿り着けなかった、リヒトについてのお話でした。
アイディアというものは、形にしてみることで問題点や想定外の良さが見えてくるもの。もし、実現できたら面白いだろうなあとぼんやりと考えているものがあるなら、一度、試作品として形にしてみることをオススメします。
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