KTH邸キッチン施工例(1)

私の仕事上、建築そのものの空間を提案するよりも、そこに置く家具(テーブルやソファ等)、窓回りを彩るウィンドウトリートメント類(カーテンやブラインド等)、空間の使い方や雰囲気に合わせた照明器具(ペンダントやブラケット、間接照明等)、視覚的・精神的に癒しやアクセントを与える植栽(観葉植物・インドアグリーン)をプランニングする事の方が多い。

建築空間の中で人間が、快適且つ機能的に過ごす為には、収納や本棚・書斎机等を含む造作家具や、欠かす事の出来ない「食」生活を司るキッチン(設備も含む)もその重大な要素であると考えている。
これらの中で、私の日々の業務の大半を占めている「キッチン」についても、今回をはじめとして書いていこうと思う。

ここに紹介するのは、最近納品した新築物件のオーダーキッチンである。住まい手は30代前半の若い夫婦。現在は第1子が産まれるのを楽しみにされている。昨年の夏前くらいから打合せを重ね、納品寸前まで素材や色、仕口の検証を繰り返したコダワリの詰まったものが出来た。

まず第一に他所と違うところは、機器の選定や配置、ヴィジュアルに関して先導されたのがご主人であったこと。何せ包丁9本を収納出来るスペースの確保が必要であったのは今回が初めてだった。どちらかといえば奥様の方が「キッチンは料理が出来たら良い」という考えに近い印象で、色使いや組み合わせを担当され、非常にバランス感の良いご夫婦。打合せも楽しく進めて行くことが出来た。

配列としてはアイランド(独立型)と壁面に沿うI型という2列タイプになっている。多くはアイランドの奥行が深く、対面側(ダイニング側)に収納やカウンターを配置するのだが、間取りとダイニングセットの為に奥行を少し抑えたスリムなアイランドで落とし込んでいる。というのも初期の段階から、ダイニングチェアはウェグナーのCH24、別名Yチェアと決まっていたからだ。

諸説有るが、Yチェアは元々老人の立ち座りの動作を楽にする為、ラウンドした肘掛の先がテーブルの下に入り込まない設計になっている。即ちテーブル下にチェアが収納出来ない為、アイランドキッチンとテーブルの間に通路を含めたスペースを、十分に確保しなければならないという事情があった。そこでアイランドキッチンのダイニング側のデザインは、それらの美しい家具を際立たせる様、シンプルなグレージュの単色パネルにしている。

アイランドキッチンの内側(シンク側)は手入れや機能性を重視し、濡れた手で触る可能性がある部分を劣化しにくく、汚れの目立たないダークグレーの扉材を採用した。これにより指紋や油汚れがついても、気を使わずゴシゴシと水拭きが可能である。

ワークトップ(天板・作業台)はアイランドとI型部分の2列両方共ステンレスのバイブレーション仕上げを選択した。以前は主流であったヘアライン加工の物ほどギラつき感が無く、仕上として満遍なく円形に無数のキズ(模様)を付ける事で、品の良いマット感を与えている。バイブレーション加工を施す事で、キズが付きにくく目立ちにくい。ステンレス自体が防汚性・耐熱性、耐久性に優れている為、キッチンのワークトップとしては比較的ローコストでありながら、最も理に適った素材の一つと言える。視覚的な効果としてワークトップの厚みを15mmに設定し、軽やかさ・繊細さを出し、無機質で冷たい感じを抑えている。
またシンクもステンレスなので、今回はワークトップとシームレス(継ぎ目が無い)の一体で、手入れや掃除が非常に楽という利点もある。

アイランド側にシンク、壁面I型側にコンロを分離配置することで、シンク横に広い作業場が確保出来ている。夫婦揃って料理する機会も多い、こちらの様なお宅には有利なプランニングになったのではないか。

 

次回につづく

 

ライター:北澤武宏について

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